【なぜ】CHUNITHMが面白いのか【考察】
本記事ではSEGAとKONAMIを比較して「CHUNITHM」が面白い理由、そして2社の今後について考察していきます。比較的長文です、ご容赦ください。
1.SEGAはユーザー層をシフトした
ゲーセンでひと際目立つ音ゲーといえば?
そう「maimai※1」別名洗濯機とも呼ばれるあの大きな筐体だ。
※1.中央から広がっていくノーツを円形に配置された8か所のボタンでタッチしていくフィジカルリズムアクションゲーム。
日本の代表的な大手動画サイト「ニコニコ動画」と連携したゲーム中に流れるムービーは「投稿動画」
ネット動画ブームに乗っかった音楽ゲームとしてSEGAが2012年に発表した。
もちろん、「ニコニコ動画」の層を取り入れようとした音ゲーは他社にもある。
BEMANIシリーズでおなじみのKONAMIが2012年に発表した「SOUND VOLTEX※2」はボーカロイドをはじめとしたネット音楽ブームの最前線で活躍していたcosMo@暴走Pやsasakure.UKなどの有名コンポーザーに楽曲を提供してもらい、音ゲー音楽を根本から改革したタイトルとして有名である。
現在の音ゲーに東方Projectやボーカロイド楽曲が当たり前に収録されるようになった背景には「maimai」と「SOUND VOLTEX」の成功があるためである。
※2.固定された6つのボタンと左右に付属している回転式のつまみ2つが特徴。いままでの演奏する音ゲーやリズムを刻む音ゲーとは異なり、音楽にエフェクトをかけるDJのようなギミックが楽しめるタイトルである。
少なくともこの時までSEGAとKONAMIの見ていた層は同じだったと考えてもいいだろう。しかしこの2社はこれを境にそれぞれが違う層へシフトしていく。
まずKONAMIは従来の「上からコナミ」と言われる垂直に降ってくる音ゲーの製作をやめ、「BeatStream※3」のようなスマホと同じタッチパネル式音ゲーや、「DanceEvolution※4」という斬新なダンスゲームを発表した。
「BeatStream」はスマホゲームアプリが数々発表される中、スマホ音ゲーアプリが熱を帯び始めた2014年に発表されたタイトルで、円形のゲームにもかかわらず、画面比がなぜか横長ワイドなのもスマホユーザーを意識したのだと考えられる。
※3.中央の8角形のジャッジリングに8方向から迫ってくるノーツと、周囲に配置された6か所のリップルに出現するノーツの計14か所をリズムに合わせてタッチするゲーム(最高隠し難易度ではリップル位置が増える)
本タイトルは音ゲーマーではある意味有名な作品である。
(もしかして:怪盗BisCoの予告状!!)
はっきり言ってこの「BeatStream」が注力した層は従来の音ゲーマーではなく「萌えヲタ」といわれる可愛いものが好きな男性層であるといえる。かわいいをテーマにした音ゲーの固さを感じさせない楽曲のラインナップ。BEMANIシリーズでありながら、BEMANI機種からの移植楽曲に明らかな偏りが見られたのも、この対象とした層を意識していたためと考えられる。「maimai」の成功から考えを得たのだろうが、どれも中途半端だったと言わざるを得ない。
その結果従来の音ゲーマーは食いつかず、一部の人気のみで下火となった。皮肉なことにスマホアプリ界隈で音ゲーが最高に盛り上がったのはこのタイトルが発表されてから2年後である。
このタイトルはこの後、従来の音ゲーマーが求める楽曲を収録し始めるが、時は既に遅く、他の機種にユーザーが流れてしまった後であった。
「DanceEvolution」は2012年に発表され革新的なダンスゲームとして複数のメディアも注目したタイトルであった。ここで対象とした層は「DDR」をプレイしている層ではなく「ニコニコ動画」に投稿される動画でも人気ジャンルである「踊ってみた」をコピーしている視聴者たちである。「DMX」の際は「DDR」から多くの楽曲が移植されたが、このタイトルでは人気楽曲中心になっている。
※4.画面に映るダンサーと同じ動きをして表示されるマーカーを反応させていく新感覚音ゲー
ダンスゲームと言えば、同社が出した「DDR」や「DMX」などがあるが、完全に踊ることをゲーム化したのはこのタイトルが初である。21世紀の技術が20世紀のコナミの発想を叶えた結果生まれたともいえる。
2016年8月にはゲーセン関係者の発言からサービス終了するのではないかという疑いが発生したが、現在もオンラインサービスは一部筐体で継続しており、ユーザーからの人気は根強い。
ここまでKONAMIの動向傾向を記したが、
一部の層に対して訴えかけ新規ユーザーを見込んだタイトルが中心だ。それが成功したかどうかはさておき、SEGAを見てみよう。
SEGAが2015年に発表したのはおなじみ「CHUNITHM※5」である。ボタンを一切使用せず、タッチパネルでもない。さらには「上からコナミ」と呼ばれる降ってくるノーツをタップするというBEMANIシリーズに酷似するスタイル。今までのSEGAのタイトルとはかけ離れたスタイリッシュなタイトルであった。
それもそのはず、協力会社に「コナミデジタルエンタテインメント(当時BEMANIプロダクション所属、現在はコナミアミューズメント)」の文字が。
※5.ラインフリーで左右のセンサーで腕の振り上げ下げを感知するギミックがある
これまでKONAMIとSEGA、バンダイナムコ、タイトーは音ゲー界の四天王として君臨しており、中でもKONAMIとSEGAの確執は大きくそれぞれの楽曲が互いの機種に移植されるということはなかった。そんな2014年に行われたAOU主催「天下一音ゲ祭」で4社4機種がそれぞれに自社楽曲を提供するという音ゲー界に衝撃を与える事件が起きた。
これがきっかけだったのかは不明だが、続いてこの「CHUNITHM」の発表でSEGAとKONAMIの雪解けを感じた音ゲーマーは少なくない。それだけではない、なんと初期楽曲に「FLOWER」「ちくわパフェだよ☆CKP」の2曲が。当時BEMANI楽曲で他機種に収録されていた楽曲は先の音ゲ祭で収録された「FLOWER」のみであったのだ。
その後「CHUNITHM PLUS」で「Elemental Creation」「アルストロメリア」
「CHUNITHM AIR」で「凛として咲く花の如く」が収録され、BEMANI機種から合計5曲が移植された。
これはSEGAが他社含め多くの音ゲーマーに対して、層を移したのだと言える。新規音ゲーユーザーではなく、今音ゲーを遊ぶ多くのプレイヤーたちを対象にしたマーケティングを展開しているのだ。
これが功を奏し、多くの機種をプレイするユーザーが「CHUNITHM」をプレイし始めたのは言うまでもない。
ここで対照的なのはやはりKONAMIとSEGAの方向性だ。いまだ新規ユーザーを狙うKONAMIと新規ユーザーではなく現行ユーザーを取り込み始めたSEGA。
結果としてKONAMIから顧客の一部がSEGAに移ったわけだが、続けてKONAMIが発表したのは「MUSECA」。今度はソーシャルゲームを好む新規層を狙ったタイトルであったが、当然現行ユーザーからの評判は好ましくない。時期が近く、かつゲーム性が似ていたため不幸にも「CHUNITHM」と比較され、当然その軍配が上がったのはSEGAだ。
2.KONAMIの苦悩
SEGAがKONAMI寄りの路線を展開していくのに対して、KONAMIはだんだんとその迷走を激しくしていく。なぜなのか。
それは音ゲー業界の激しい変遷にKONAMIの旧態依然としたスタイルが通じなくなってしまったからである。これまでKONAMIはわかりやすい操作とシンプルなシステムで評価を得てきた。その中でSEGAの「maimai」のような体を大きく動かすものや、「GROOVE COASTER」、「crossbeats REV.」のようなスマホアプリから派生したアーケード機種などのライバルが次々と現れる。
KONAMI視点では、自分たちとは違うゲーム性が評価を得ているように錯覚を始めてしまったのだ。
そこで生まれたのが
「DrumMania」を「太鼓の達人」の層にアプローチした「ミライダガッキ」
「maimai」を模した「BeatStream」
「CHUNITHM」を模した「ノスタルジア」
といった人気機種のパクリリスペクト作品である。もちろん一定の評価は得られたが、オリジナルのタイトルほどの評価は当然得られない。
これがさらにKONAMIの勘違いを加速させる結果になる。
今現在音ゲーをプレイしている層はいくらゲーム性の近い機種を発表してもその機種から動くことはない。
たしかにその理屈は正しいが、そこからKONAMIの考えたビジョンはライト層をコア層へというものだ。
スマホでゲームをプレイするライトゲーマーたちを、アーケード機種をプレイするコアゲーマーに変えてしまおうというとんでもない計画を打ち立てる。その考えの中生まれたのが「MUSECA」であったのは言うまでもない。
ここまでKONAMIが新規ユーザーにこだわるのは、今のBEMANIユーザーが徐々に減少をしていっているためだ。真新しく、楽しそうなもの。そうでないと食いついてもらえない。その考えが今までの成功しているBEMANIゲーの根幹にあったものを曇らせていく。焦点は新しい機能とそのゲーム性へとむけられ、新機種の度に新しい要素を作らなければならないと焦りが見られる。
その結果筐体は大きく、高機能に変貌していく。かつてのスタイリッシュでスマートなものとは違うものへと。
これが次第にBEMANIユーザーを減らしている一番の要因とも知らずに。
3.CHUNITHMの成功の秘密
「maimai」での成功を受け、SEGAが考えたのは、やはりKONAMIのBEMANIシリーズの魅力だ。そのブランド力は依然高く、ユーザーの層も厚い。
このユーザーを振り向かせるにはどうすればよいか。「CHUNITHM」の製作にはそんな思惑が見え隠れする。
「beatmaniaⅡDX」のようなシンプルなゲーム性を追求し、そこに新たな要素を組み込む。類似しながらもオリジナリティを決して損なわないぎりぎりを攻める。
KONAMIを真似しながらKONAMIに真似できない独創的な部分、「maimai」で得た経験を活用し思い付いたのが、
「beatmaniaⅡDX」の皿のようなフリック
「SOUND VOLTEX」のつまみのようなスライド
そして新たな要素3次元ノーツだった
「空間を切り裂く音ゲー」そんなキャッチコピーで登場したのはまるでかつてのBEMANI機種にSEGAの楽しさを追求する姿勢が加わった、ユーザーが一番求めていた理想ともいえるタイトルだ。
既視感を覚える操作性なのに、古い印象をうけない。
誰でも理解できる簡単なシステムは新規ユーザーも受け入れようとする戸口の広さだ。
この結果、「CHUNITHM」は他機種ユーザーと新規ユーザー両方からユーザーを集めることに成功したのである。
4.今後のSEGAとKONAMI
SEGAが今行うべきは、KONAMIのBEMANIシリーズとの合同イベントの開催だ。SEGAユーザーがBEMANI機種を触る機会を設け、BEMANIユーザーがSEGA機種を触る機会を得る。双方の楽曲を積極的に交換しあう。SEGA側だけが受け入れるのでは、SEGAへユーザーが流れるだけである。KONAMIはもっと柔軟に多くのユーザーに焦点をあて、何を求められているかを考えるべきである。
しかし徐々に埋まり始めたとはいえ会社間の溝はいまだに深い。
そんな中、現状KONAMI1強であるこの業界にメスを入れられるのはSEGAだけである。
近い将来、アーケード業界で覇権を握っているのはSEGAだと筆者は考えている。
事実、「CHUNITHM」「ワンダーランドウォーズ」「艦これアーケード」など人気タイトルを次々と出してアミューズメント業界を湧かせているのはSEGAである。
ではKONAMIはどうか。KONAMIはコナミデジタルエンタテインメントとコナミアミューズメントの2社がアーケード業界で活動していたが、コナミデジタルエンタテインメントは2016年10月をもって、アーケード市場から撤退。コナミアミューズメントへその権利は移ることとなった。ただの会社内部の部署変更なのか、それともコナミデジタルエンタテインメントが落ち目の市場を見限り、アーケード市場以外に注力を始める方針に転換したのか、真実は不明である。
その先ぶれなのか、「ミライダガッキ」は2015年に、「DanceEvolution」は2016年に一部筐体のサービスを終了している。BEMANIというブランドだけではどうしようもない時代になったのだろう。